旅立つ前に
 旅の日記
 旅のルート
 旅の道連れ
 旅の本(妻)

 

 

 

普段はあまり深いことは考えない単純な私たちですが、旅立つにあたり思うところもそれなりにありました。そこで、旅に出る前にそのへんを少し整理しておきたいと思います。そもそも、私たちがなぜ世界一周旅行に出ることになったのか。結婚、退職、旅立ちまでの経緯。そして旅に向けての抱負など、思いのたけを気ままに記していきます

 

・旅のきっかけ
・旅の心構え
・旅に出る環境て
・旅に行く時期、結婚
・ふたり旅

・ともちゃんについて
・旅と音楽
・旅の予算

 

 

 ■旅のきっかけ
大学生の頃から東南アジアばっかり、しょっちゅう旅に出ていた。帰国するたびに、いつか長〜い旅をしてやろう、と思っていた。旅人同士、「また、旅の空で会いましょう」なんて挨拶をして別れたりするシチュエーションに自分を置いては妄想を膨らませていた。勝手気ままに風のふくままに、どこにでもいける自由。なぜ?と聞かれると、このエピソードを話すことにしている。

4〜5年ほど前、タイ旅行の帰り道、フィリピンのマニラにストップ・オーバーしたことがある。乗ってきた飛行機はタイからの旅行帰りの日本人ばっかりだったけれど、やっぱりマニラは旅行スポットというよりはビジネス地なのだろう、日本人の乗客で降りたのは私のほかに毛むくじゃらの熊みたいなおじさんだけだった。そのおじさんは荷物が出てこないというトラブルに見舞われて右往左往していた。そんなトラブルがあったため、なんとなく親しくなって市内まで一緒にバスで行き、流れで一緒にご飯を食べた。どこから来て、どこに行くんですか?っておきまりの質問をしたら、「いやあ、世界一周」ってテレながら答えた。なんでも仕事を辞め、家をたたみ、車を売り、すべてお金に換えて日本を出発して1年半ほどだと言う。「なんで世界一周旅行に行こうと思ったんですか?」。たぶんこれはもう何十回と聞かれた質問だと思うのに、そのおじさんはまたテレながら言った。「観光したかったんだよね」

しょっちゅう旅をしていて、漠然と「なんで私は旅が好きなんだろう」と思っていた私にとって、それは目から鱗が落ちる答えだった。旅人のなかには「自分探しの旅」とか「自己訓練」なんてちょっと小難しい顔をする人もいたし、「別に日本にいてもおもしろくないし」なんて言う人もいた。でも、シンプルでいいじゃないか。私はチベットのあの青空がもう一度観たい。ヒマラヤも観たい、トルコ風呂にも入ってみたい、ピラミッドにも登りたい、アフリカでサファリに行きたい、ブラジルで踊りたい、ついでにマチュピチュの遺跡も観たいーーようは「観光したい」ってこと。世界中を観光したいから、世界一周の旅に出ようと思ったのだ。‥‥でもここまで書いていてふと思った。観光って言葉は"観る"+"光"。光を観たい‥‥なんていうとカッコよすぎる?(妻・松岡絵里筆)

 
 ■旅の心構え

世界一周旅行に行く、という話をするとよく「すごい」と言われる。でも、私が思うに「旅したい」ってのは基本的に「洋服がほしい」とか「飲みに行きたい」とか、なんなら「キャバクラに行きたい」ってのとあんまり変わらないと思うのだ。

すっごく古い話なのでうる覚えなのだが、その昔アグネス・チャンと林真理子が企業における託児所についてどこかの雑誌上で議論したことがあった。そのときアグネス・チャンは「いまやフィットネス・クラブでも託児所があるのに、なんで会社に託児所がないのか」ってなことを書いていて、それに対し林真理子が「比べるものの質が違う。フィットネス・クラブはお金を払ってサービスを受けるところ、会社はお金を貰うかわりに自分の労働力を提供するところ」と反論していたけれど、それはごもっとも。旅行なんて要はお金を払ってサービスを受ける、その連続でしかないのだ。旅はいろいろなことを教えてくれるなどとよく言うけれど、そのためにこっちはお金を払っているのだから、何も得なければウソだと思う。要は娯楽。もちろん病気になったりイヤな目にあったりしてすべて楽しいとはいかないだろし、旅に出る環境を整えるのだってひと苦労だけど、それだって自分から好き好んで選んでいる道だ。

だからこそ、おもいっきり遊ぼうと思う。キャバクラに行って、つまらなそうな顔をしている人は損なように、旅に出て「自分とは何か」なんて神妙な顔で考えるのも、まあ時々ならはそれも娯楽のうちだけど、あんまりそんなところに重きをおいても仕方ないと思う。そんなのトイレにいたって考えられるんだから。それよりいろんな景色を見て、いろんなところに行って、いろんな人と会って、それからおいしいものをいっぱい食べて(でもあんまり太りたくはないけど)、「いや〜、楽しかったねえ」って笑って帰ってきたい。(妻・松岡絵里筆)

 
 ■旅に出る環境

旅自体は単なる娯楽だと思うけど、世界一周、っていう娯楽に向かうまでの環境調整は決して娯楽じゃない。まずはお金。これも超単純な話で要は支出より収入が多ければ貯まるってことは子供でもわかるんだけど、なかなか、ね。別項でも書くが、ここは私たちはハッキリ言って甘えたと思う。ともちゃんのアパートの契約期限が切れるのをいいことに、さっさと私の実家にふたりして住み、ともちゃんぶんの家賃をカット。とはいえ一泊旅行とかクラブとかもガンガン行ってたから、そこまで切り詰めてたというわけではない。このへんは、もっとやりようがあったのかもしれない。

あとは環境。結婚話が出たときにうちの母親とともちゃんの両親は「結婚はいいけど、会社を辞めるのは考え直したら?」という姿勢だった。まあ私たちはふたりとも言い出したら聞かない性格なのでどちらの親も諦めつつの反対だったのだと思うけれど。ただ私の父親だけが「その後のことを背負うだけの覚悟があるなら、いいんじゃない?」と言った。

入社して私は3年、ともちゃんは2年。ようやく仕事を覚え出した頃に辞めるのは会社に対しても失礼だと思うし、何より自分たちのキャリアという面ではマイナスだろう。どちらも移り変わりの激しい業界で1年以上のブランクは大きな痛手だと思うし、何より私はキツイところもあったけれど自分の仕事と職場を気に入っていた。日本に戻ってきても、同じぐらい満足のいく仕事につけるとも限らないし、そもそも仕事がないかもしれない……って書きながらちょっと不安になってみたりもするのだが、でもまあいいや。今、行きたいから。今しかないから。帰ってきてどうなっていようとも、それは自分たちの責任。何があっても覚悟しよう。そんな見切り発車の私たちだから、それを許してくれた家族や会社には本当に感謝している。(妻・松岡絵里筆)

 

 ■旅に行く時期、結婚

「結婚しよ」って言ったのは私のほう。でも今だから言えるが、ホント言うと別に結婚する気があったわけじゃない。むしろ「結婚しよ……って言えるぐらい大好きよ」な気分だったのだ。ただそのひと言でともちゃんが目をパチクリして驚いてしまったので、なんとなく引き下がれなくなっちゃったのも、事実(ごめんなさい)。それからは坂道を転げ落ちる勢い、とはまさにこのこと。翌日には「いつ結婚する?」という話になった。そこでともちゃんが言った「結婚して世界一周旅行でもいくかぁ」というひと言が運のつき。

先にも書いたけれど、長旅をしたいという気持ちは社会に出る前からあった。本当言うと私の筋書きでは大学時代に就職活動に失敗して就職先が決まらず、「だったら旅にでも出るかな〜」といって1年ぐらい海外でぶらぶらして、戻ってきてからその後の動向を考えるつもりだった。けれど熱くなりやすい私のこと、就職活動をしていくうちに「これは何がなんでも絶対に就職先を見つけるべし」と鼻息も荒くなり、運良く受け入れてくれる会社が見つかったのだ。

でも今だからこそ思うが、長旅に出るより前に社会に出て良かった。実は大学時代、ワーキングホリデーでオーストラリアに行きたい、と両親に言ったことがあった。そのときも父親は「別に戻ってからの覚悟があるなら、いいよ」と言った。そして「でも、ワーキングホリデーでオーストラリアに行くなんて、あんまり有益だと思わないなあ。だって誰にでもできることだし、むしろそれだったら海外から仕事で呼ばれるとかさ、海外から必要とされる人になったほうがいいんじゃない?」とも。言い出したら聞かない私も、これにはちょっと考えた。私がオーストラリアに行きたいのはなんだろう、ただ「海外に住んでみたい」っていうだけで、それ以外なんの目的もないし、何もできることってないしなあ……。そして、私はオーストラリアに行くのをやめた。その選択は正しかったと今でも思う。だからといって今、「海外から必要とされて」旅に出るわけでもなんでもないのだけれど、でも学生の延長とは絶対に違う。働くということをちょこっとだけ学んで、社会のしくみをちょこっとだけ学んで、それを知ったうえでの旅はありがたさと覚悟が違うのだ。しかもふたりとも20代中盤。バリバリのビジネスマンを目指すには落第生かもしれないけれど、まだ人生の軌道修正できる年齢だろう。

話を元に戻そう。ともちゃんがひょこっと言ったそのひと言で、私の旅心がむくむくと持ち上がった。「ね、ね、それ決まりだよ。私ね、実は世界一周旅行、ずーっとしたかったんだ」。ともちゃんのいいところは私と一緒であんまり考えないところ。その場でふたりで世界一周旅行に出ることに決め、「出るならなるべく早いほうがいいよね」ということで金銭的に実現可能なラインで7月出発ということに決まった。(妻・松岡絵里筆)

 
 ■ふたり旅

大学時代はともちゃんにほのかな恋心を抱きつつ、「でも私にふり向いてくれないのね」と思っていた私。だから再会したその日に彼女がいない!って知った2時間後ぐらいには私から付き合って、って言っていた……安直な私。でもその瞬間になんとなーく「あ、私はこの人と結婚するだろうな」っていう気がしていた……よくある話だけど。

でも旅となるとまた話は別だ。つねづね「旅は絶対ひとり旅がいい」と私は言っていた。ひとりのほうが孤独なぶん、孤独を紛らわそうと外に出るからだ。もちろん女の子のひとり旅は危険だけれど、そのぶんやさしくしてもらえるという女の下心(?)もあった。それが連れ合いとのふたり旅。う〜ん、話が違う。

でも決め手は岡村さんのひと言。彼は4年ぐらい前にインドで知り合った友達で、一時、私の家に居候もしていた決して40歳には見えない40歳のドレッド兄さんで、ここ10年ぐらい日本でお金を貯めては海外に出るという生活を繰り返している真性の旅人だ。その彼が「いいよな〜、オレも女の子とふたり旅とかしたいよ〜」とボソッと言ったのだ。長年旅を続けている岡村さんが「いいよな〜」と言ったのは説得力がデカイ。やっぱりふたりで一緒の景色をみたいんだよね。直感に近いけど、今はそう思っている。

考えてみると海外にひとり旅をして旅先で彼氏を作るってのはよくある話で、現地の人ならそのまま現地妻になるんだろうけど、私の場合、あまり外国人男性に興味が沸かない。これは別に、外国人男性は……とか言うつもりもなくて、単に日本人にしかフェロモンを感じないのだから仕方がないと思う。だから旅先でどうにかなるとしても相手は日本人の確率も高いわけで、もし旅先で出会ったとしてどうにかなっても、帰るふるさとは一緒だ。で、そういう場合、スキー場の恋と一緒で、たいがいうまくいかない。

あ、旅先で誰かと知り合ってそのまま付き合う、という話が前提になってしまったが、そうでなくてもたとえばイスラムの国々や南米、アフリカなど、絶対に男性のパートナーと一緒にいたほうがいい国もある。そういうときに下手なパートナーを探してそのまま部屋をシェアして、そのままなんとなく情が移って、これは恋かしら?なんて勘違いしてほにゃほにゃなっちゃう可能性も高いかな、という話。あ、それでもほにゃほにゃなるというのが前提か。でもとにかく1年間世界中をまわって誰とも愛だの恋だの一字もないよりも……と思ってしまうのが私で、それならちゃんとした相手とセーフ・セックスでしょう(強引?)。(妻・松岡絵里筆)

 
 ■ともちゃんについて

付き合い出してから知ったけれど、ともちゃんは見かけよりずっと単細胞だ。これを言うと本人はスネるけど、でもいい意味で。だいたい、彼は一度も海外に行ったことがない。そんな状態なのに、たいして悩みもせず「世界一周旅行にいく」と決める安直さがすばらしい。悩むことは時には必要だけど、実際問題あれこれ頭で考えてる間は状況は何も変わらないのだ。旅だって、そののスタイルはいろいろあるだろうけど、シンプルに考えれば行く/行かないの二者選択問題だし。

ともちゃんはよく寝る。私もよく寝るけれど、たぶん私以上に寝るし、しかもどこでも寝る。朝、一緒に会社に行くときに、ふと気づくといつの間にかふたりで終点まできていて、折り返し電車が出発するベルの音で起きたりすることもあった。睡眠は健康の基。枕が替わろうが、寝ている間に地震がこようがぐーすかぴーとよく寝るともちゃんは長旅向きだ。

ともちゃんはおたくなぶん、意外と常識に欠けている。「国際線に乗るときは機内でスリッパに履き替えるんだよ」なんて30年ぐらい前から言われてることを言うと「え、そのスリッパってスチュワーデスさんがくれるの?」と真顔で答えていた。タイのメーホンソンにいる"首長族"の話をしたら、「え、現代にそんな人がいるの?」と目をキラキラさせ、ネットで調べてその写真を見つけたときには狂喜乱舞していた。かわいい。ヘタに旅好きでちょこっと知識をつけちゃった私の連れ合いとしては新鮮なタイプだろう。お互い自覚はないけれど、周囲から見たら、ヒッピーとおたくのふたり旅。なんか起こりそうだけど、でもいいんじゃない?と気楽にかまえている。(妻・松岡絵里筆)

 
 ■旅と音楽

「世界一周旅行に出たら、新譜買えないね」というのが当初、ふたりの共通の悩みだった。今でもちょっと悩んでるし、習慣になっちゃってるので、正直不安だ。でも「世界一周旅行いこうと思ったんだけどやめたんだよね」、「なんで?」、「新譜が買えなくなるから」というのもなんだかヘボい。

解決策@ネットで購入する。
便利な世の中になったなあ。

解決策A新譜は諦める(特にともちゃんのアナログ)。
そのかわり、別の項目に書くけれど、山ほど音源は持っていく。幸い私はほぼ100%CDなのでMP3にして、持てるだけ持つ。荷物になるけれど、やっぱりお気に入りの音楽がないのは嫌だ。長旅の理由のひとつに「ゆっくり音楽を聴きたい」というのもある。リリース・サイクルの早い日本にいて、しかもそれに関連する仕事をしているがゆえ、一度聴いたら2度目は聴かないCDは山ほどある。一度聴いただけではわからない音楽もたくさんあるというのに。だからゆっくり聴いてステキな再会をしたい。

解決策B現地購入
これが一番有効かつ期待したいところ。そもそも日本だけじゃなくて、世界中に音楽はあるし、その国ならではの音楽もある。せっかくだから外に目を向けたい。

東京にいると、耳に入ってくる音は雑音に聞こえがちだけど、初めていく場所なら現地の音も楽しめるだろう。潮風、ココナッツ・ツリーの葉ズレの音、飲み屋の喧騒。耳も一緒に世界一周。う〜ん、楽しみ。(妻・松岡絵里筆)

 ■旅の予算
「そんなに貯め込んだの?」。新婚旅行は世界一周!という無謀な計画を話すと、ぶっちゃけている人からは必ず聞かれるのがこの質問。正直、私もともちゃんもお金の話は好きなほうではない。ふたりともどんぶり勘定が基本だし、「武士は食わねど高楊枝」みたいなところがある。ビンボーも嫌いだが、もっと嫌いなのはみみっちいヤツだ。

だけど、たぶんそれを聞きたい人も多いと思うので、ここでは思い切ってぶっちゃけましょう。ひとり200万、ふたり合わせて400万。これが私たちふたりの世界一周旅行の予算です。これが高いか、安いか……はそれを聞いた人の判断次第だけれど、正直、私たちは「これで行けるのかなー」という不安はかなりありつつも、当初の予定どおりこれで世界一周できるのなら、かなりお買い得な経験だと思っている。

そもそも、私は消えてなくなるものにお金を遣うのが、美しい遣い方だと思い込んでいるフシがある。もちろん、10代の頃はお洋服や化粧にバリバリと投資していた。だけど旅に出て、いろんな景色を見ているうちになんだかバカらしくなってしまったのだ。せいぜい外見の美しさで勝負できるのも、20代までだろう。10代の頃につぎ込んだお洋服のうち、いまもまだ愛用しているものなんて、投資額の10%にも満たないと思う。しかも、残りの90%は何を買ったか覚えてもいない。

だったらいろんなところに行き、いろんなものを見て、いろんな音楽を聴き、いろんなものを食べる。そんな経験のほうがよっぽど自分の肥しになるんじゃないだろうか。あ、実際の体重にもつながるけど。しかも職も失ったけど。(妻・松岡絵里筆)